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その土地でしかできない作品をつくる。旅するパフォーミング・アート・グループ、ソノノチ公演『風景によせて2021 かわのうち あわい』

今年で3年目となるアートの祭典、とうおんアートヴィレッジフェスティバル2021。今年度の最後を飾る公演は、東温市で初となる滞在制作(アーティスト・イン・レジデンス)による風景演劇プロジェクト作品『風景によせて2021 かわのうち あわい』です。

滞在アーティストは、京都を拠点とするパフォーミング・アート・グループ「ソノノチ」。“その後(のち)、観た人を幸せな心地にする作品をつくる”という創作コンセプトで、屋内外を問わず、独自の演出手法で幅広いクリエーションを行っています。

3月26日、27日に東温市河之内地区での本番を迎える公演は、一体、どのような作品になるのでしょうか。構成・演出の中谷和代さんをはじめ、公演に関わるメンバーの皆さんにお話を伺いました。

その場所でしかできない作品づくりがしたい

2013年にカンパニーを立ち上げて約8年が経つソノノチさん。もともとは劇場で上演していた時期があり、そこからカフェやギャラリーなどのオルタナティブな場所でも上演を行うなど、変遷をたどってきました。

今回のような滞在制作など、風景をテーマに作品づくりをするようになったのはここ2~3年のこと。なぜ、滞在制作や風景演劇をするようになったのでしょうか?ソノノチ代表の中谷和代さんは、次のように語ります。

中谷さん:あるとき、滞在制作という形が私たちのカンパニーに合っているんじゃないか?という話になったんです。多くのカンパニーは、稽古場を借りて、ほかの仕事もしながら夜の稽古に集まって、作品をつくって発表するやり方をとっているのではないでしょうか。私たちもそうでした。

けど、2018年の東京ツアーが終わった帰りに、いい意味でもそうでない意味でも、「これ以上はできないな」というところに行きついたんです。作品のクリエイティビティとして、ここからもう一段階自分たちの活動を向上させるために何ができるかと考えました。

 

中谷さん:それまでの私は、どんどん大きな劇場で公演して、たくさんお客さんに来てもらったら、いつの間にか集団がステップアップしていくだろう・・・みたいな抽象的な捉え方しかしていませんでした。

公演をやって、終わったらまた新作を作って公演、また来年もと繰り返すうちに、どんどんいろんな関係性が希薄になってしまうようなというか、体験としてもいろんなことが深まらないままに各公演が終わってしまうような感覚があって。それは今の活動形態が私たちにフィットしていないのではないかと思っていました。

何が大切なのかはカンパニーによっても異なりますが、私たちは作品を作る過程で出会う人達やその場所のことをもっと知りたいし、自分たちがどんな人間かも知ってほしい。時間をかけて、その場所をよく知った上で作品づくりをしてみたい、と思うようになりました。

また、劇場に行くまでの道で見える景色とか、駅からお客さんがどういう道のりで来るのかとか、そういうことも私は作品の一部だと思っていて。そういうことを考えると、もう少し自分たちのつくる作品の内容だけではなくて、リサーチから創作のプロセスのアーカイブ、関連企画に至るまで、私たちにとって新しいクリエイションのかたちを試してみたい、とメンバーと話しました。その中で「滞在制作」はどうかな?という話が出てきたんです。

 

どんどん物事が効率化して、希薄化していくことに危うさを感じているという中谷さん。そんな時代の中で、かける時間が長ければ長いほど大変ではあるけれど、地域に入り込んで、じっくり時間をかけて、この瞬間・この場所でしかできない作品をつくることに価値がある、と信じているそうです。

本番ができなくても終わりじゃない。プロセスを残す作品づくり

本番の期間を含め、延べ約1ヶ月、5回の滞在を行ってきたソノノチさん。東温市でも作品づくりだけでなく、積極的に地域と関わってきました。

地域の中に入っていき、創作の過程や、滞在期間中の活動をアーカイブすることにも力を入れています。それにはどんな理由があるのでしょうか?制作担当の渡邉裕史さんにお伺いしました。

渡邉さん:創作の過程を記録するようになったのは、やはりコロナで本番ができないことを心配しなければならなくなったことが大きいです。本番ができるかどうかが当日までわからない。じゃあ、本番ができなかったら今までのことは無かったことになるのか?といえば絶対にそうではないんです。

数ヶ月メンバーが集まれなかった時期があったんですが、演劇って集まれなかったら致命的なんですよ。できないので・・。それが解除されて、久しぶりにメンバーと会って話した時に、過程を記録していこうという話が出たんです。

 

渡邉さん:本番を迎えるまでにいろんなことが生まれるんです。舞台の創作って、1から順番に積み重ねていく訳ではなくて、紆余曲折がたくさんあるんです。何度も崩して、積み上げて・・・そこで出たアイデアも全部記録しておけば、本番ができなかったとしてもそこまでに作っていたものを作品として出せるのではないか、と思ったんです。

今回の風景演劇プロジェクトも、時期を変えると、全く同じものはできません。その時に上演できないと、基本的に同じものはできない。(記録していたら)仮に上演ができなくても何かを残すことができる。コロナ禍でどのように作品をつくっているかを残せるのも今しかないんです。

 

ー 東温市での滞在でどんなことを感じましたか?

渡邉さん:それぞれの地域の皆さんのすごく熱い思いみたいなものを聞かせてもらって。それこそ滑川の井上さんもそうだし、井内だと永井さん、河之内の坂本さんだったり、奥松瀬川の光右衛さんにもお話聞かせていただいたんですけど、それぞれ皆さんがすごい熱い思いを持たれていて、すごく丁寧に話していただいて、それは有難かったですね。

たぶん僕たちが何者なのかも、見ていないからわからないと思うんですけど、やることを温かく押してくれているというか、そういう気持ちにさせてもらえているのは僕らとしてはとても有難いことです。僕らはお邪魔してる存在であって、外からやってきている者なので、その場所の暮らしとか生活っていうものをそのままに作品をつくりたい。もしそこに住んでいる人たちに対して受け入れられてない感があると、僕たちはめちゃくちゃ居づらいです(笑)

もちろん、そこでは田中くん(東温市地域おこし協力隊 田中直樹氏)が話を通してくれていたり、地域の方々に理解していただけるように説明してくださっていることは大きかったと思いますが、これは東温市で本当によかったことです。

 

中谷さん:「何かここでやりたい!」という熱意を地域の方とも共有しているような感覚がありましたね。この場所に心から惹かれて移住してきた方や、ここで何かを作るんだって、熱く語ってくださっている人たちから、私もとても刺激を受けました。「私たちもここで素敵な作品をつくります!!」みたいな(笑)。甘んじていない、クリエイティブな人たちばっかりだなぁと感じました。

 

今回の作品にも、これまでに東温で出会ってきた人や体験したことのエッセンスが取り入れられているそうです。

本番を挟む3月3日~3月31日までの間、東温市の「横河原ぷらっとHOME」で滞在期間の写真や、これまでのソノノチさんの作品づくりの過程を公開する展覧会が開催されています。

こうやって作品ができていくんだ、という作品づくりの裏側を見ることができます。滞在制作の過程を残していくことで、ソノノチさんも後の作品づくりに役立つ気付きが得られているそうです。

本番が終わった後もご覧になれるので、ぜひ立ち寄ってみてください。

●風景によせて2021 かわのうち あわい 「もうすぐ展」

期間:2022年3月3日(木)~3月31日(木)
会場:横河原ぷらっとHOME(東温市横河原189-4)
開館時間:10時~18時(※木曜のみ22時まで)
開館日:火、木~日曜日(月・水休館)
※入場無料

いつもの風景が非日常に。眺めるように鑑賞する「風景演劇」とは?

今回の作品の舞台は、東温市の棚田の風景が広がる河之内地区。

本番に向けた稽古も、地域の人の目に入る野外で行われます。そもそも、「風景演劇」とはどのようなものなのでしょうか?どうやって作品ができるのでしょうか?

今回の作品や、地域での滞在制作で意識していることについてお伺いしました。

中谷さん風景はそこに住んでいる方が長い時間をかけて作られているものだから、そこに私たちがどう関わらせてもらえるかっていう考え方なんですよ。私たち色に染めてやる!っていう考えは、一切ないです。(滞在制作で)意識していることっていうのは、いろいろあると思うんですけど、私はやっぱり、挨拶ですね。人に出会ったらとにかく挨拶、みたいな(笑)何やってんの?って言われたら、よくぞ聞いてくれました!という感じでお話をします。稽古中でも、それは何よりも優先されますね。通し稽古をしてても、誰かがそこを通ったら稽古は一時中止します。

渡邉さん:それが外に出てよかったことでもありますね、僕たちにとって。特に稽古場とか建物の中だと、何をやってるかって見えないんですよ。わざわざクリエイションの場に入ってくるということも起こりづらい。

けど、外でやってると自然に人が通りかかるんです。僕らも出会えるという良さがすごくありましたね。その点はすごくよかったことで、地域に入る上で意識していることと共通することですね。自分たちが何やってるのかっていうことを、たとえ何をやっているのかわからなかったとしても、「ここで何かやってる」っていうのは伝えることができる。外でやってることで。

 

中谷さん:難しかったのは、季節の移り変わりですね。最初の頃はそれひとつひとつに、ちょっと予定が狂うじゃないけど、こうしたかったのになぁ・・・と。(例えば木など)素敵だなぁと思っていたものがなくなっていたりして、やりたかったことができなくなる、みたいなことが作り手とはしてはあったんです。けど、よくよく考えたらそういうことじゃなかった、と最近は思っています。

むしろそれが当たり前というか、季節は変わってゆくものだった、という。ある美しいものが無くなってしまうのではなく、また別の美しいものがある、ここに気付かされたんです。

そういうことがあって、あるアイデアができなくても別のアイデアができるようになる、と前向きに捉えるようになりました。

渡邉さん:劇場でやるとそういう周りの環境の影響を受けないので、それと比べると難しいことはあるんだけど、それはそうだよね、と受け入れながらやっています。けど、やっぱり雨が降ると機材的に困るっていうのはありますね。スピーカーが使えないので音響ができなくなるんですよ。雨には弱いですね。

 

ー 風景演劇は、どのように楽しむものなのでしょうか?

中谷さん:目の前のパノラマ全体が作品で、そこに何を見出すかはある程度観客に委ねられています。パフォーマーを追いかける人もいれば、鳥を見ている人もいれば、木を見る人もいる。もともと風景の語源として、「主観で見る」っていうことが入っていて、風景っていうのは客観的に定義できないらしいんですよ。自分が見ているものが風景だから、お客さんの中にしかその答えはない。そういうことを作品にできたらいいなと思っています。

お客さんがその風景に何を見たいかとか、何を見るかみたいなことを見つけやすいようにいくつか仕掛けがしてあって、どこを見るかっていうのは人によって違うし、違っていいんです。

「何の話?」って聞かれるのがいちばん難しいですね(笑)。気持ちはわかるんですよ。起承転結、例えば主人公がいて大変な目にあったけど最後は幸せになりました、みたいな物語の筋っていうのを聞かれるんですけど・・・。

そこに対する答え方がいつもめちゃくちゃ難しくて。今回も皆さんが興味を持ってくださってすごくありがたいし、何とか説明したいんですけど、これをこういう話ですって言ってしまうとそうしか見えなくなってしまうんですよね。だけど、たぶん自分なりにこういう物語だったなぁ、っていうのでいいと私は思っています。

渡邉さん:みんなが同じものを見ない。逆に言うと、皆さんそれぞれの切り取り方で楽しんでいただくのが、見てほしい楽しみ方です。「おしゃれなフライヤーなんだけど、なにこれ?」っていう質問が(田中)直樹くんに殺到しているみたいで申し訳ないですけど(笑)。あえて具体的に書かなくてふんわりしていて・・・。説明は難しいですけど、それが本当のことですね。

 

そもそも、風景演劇ってなに?という方も、自分なりの楽しみ方を見つけてみるといいかもしれませんね。

タイトル「あわい」に込められた意味とは?

公演のタイトルは「風景によせて2021 かわのうち あわい」。こちらの淡い色のフライヤーが特徴的ですが、これにはどんな意味が込められているのでしょうか。

中谷:「あわい」っていう言葉は、「淡い」という言葉と、もうひとつ「間(あわい)」という、物と物との間を指す言葉もあるんです。いちばん初めに「あわい」という言葉を思いついたのは、1回目の4月のリサーチが終わって、京都に帰って、滞在中にいろんな地域の区長さんたちから聞かせていただいた話を整理していたときでした。そこで、東温市の特徴として「何か2つの要素が共存している」みたいなことがあがってきたんです。

例えば、「山間部と平野部がある」ことであったりとか、「元々この場所で生まれた人もいれば、外から移住してきた人もいる」みたいなお話を聞かせていただいたこともあって。奥松瀬川地区の神社を見に行った時に、なぜかここには北の植物と南の植物が一緒に生えているという話を伺いました。2つのものが一緒にある、

それが、互いにぶつかっているとかではなくってシームレスというか、緩やかに一緒に共存しているということ。

風景の演劇もそうなんですけど、自然とか、もともとそこにあったものが人が手を加えたものと共存している。お客さんと私たちも、当日きっとその場所に一緒にいるだろう。そういったものが、対抗するものではなくて共にあるものとして存在する。そういったことを表現できる言葉を探していて「あわい」にしたんです。

作品を観た後、世界が違って見えるかも?

ー 最後に、この作品をどんな人に観ていただきたいですか?

中谷さん:日常的に、普段その場所をみている人にはもちろん観てほしいと思います。その風景が、私たちが来たことによって、新しい要素を入れることによって、どういう風に見えるのかっていうことを感じてほしい。私たちはもちろん、その風景をより美しくしたり、私たちが素敵だと思っていることを伝えるためにいくつか工夫を散りばめているし、そのために俳優さんは身体をつくっているし、スタッフは衣装を考えています。

風が吹いている谷間の場所なので、その風をよく感じられるようによくなびくような衣装を使っていたり、長い布を使っていたり、ひらひらしていたり、衣装ひとつとってもすごく工夫がされているんです。音楽も音楽で、作曲家の方がついてくださっていて、その場所の環境の音が、音楽が消えた後にグッと聞こえてくるように、その音楽を作るんです。かき消すために作るのではなくって。

前からあるものを、もっと解像度を高く見てもらえるようになるために、見た後の方が見え方が変わるみたいな感じが近いですね。それが私たちの作品でもあります。時間の流れとか、同じものを見てたはずの自分がちょっと違って見えるみたいな感覚を感じていただけたらなと思います。そういったことを意識してつくった作品です。

 

もともと、2021年9月に上演予定であった今回の公演作品。

2022年3月、東温市にも春が訪れ、予定していた夏のはっきりとした濃い緑から、暖かく優しい空気が広がる風景になりました。季節を変えて、さらにブラッシュアップされた作品となっていること間違いなしです。

その日、その場所でしか観られない風景演劇プロジェクト、ぜひお見逃しなく。

●ソノノチ 風景演劇プロジェクト
「風景によせて2021 かわのうち あわい」
日程:2022年3月26日(土)・27日(日)
上演開始:11:00~/17:00~(各日)
上演場所:惣河内神社 および その周辺(東温市河之内甲4876)
【ご予約・詳細はこちら】https://art-village-toon.jp/performance/post-1621/

※記事に掲載した内容は投稿日時点の情報です。変更される場合がありますので、ご了承ください。
※令和3年4月よりお問合せ先が東温市産業建設部地域活力創出課地域振興係TEL 089-964-4414に変わりました。

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